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主文

1被告らは,別紙顧客目録記載の者に対し,面会を求め,電話をしまたは郵便物を送付するなどして,作務衣の売買契約の締結,締結方の勧誘等の営業行為をしてはならない。
2被告らは,別紙顧客目録記載の住所及び氏名のデータを記録したフロッピーディスク及びコンピュータのファイル等の磁気媒体並びにこれらを印字した紙媒体を廃棄せよ。
3被告らは,原告に対し,連帯して815万円及びこれに対する平成15年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4訴訟費用は,被告らの負担とする。
5この判決の第1項ないし第3項は,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1原告の請求

主文第1項ないし第3項と同じ。

第2事案の概要

原告及び被告有限会社ティー・エイチ(以下「被告会社」という。)は,いずれも作務衣の販売事業を行っている会社である。
本件において,原告は,原告の営業秘密である別紙顧客目録記載の顧客情報(以下「本件顧客情報」につき,原告から開示を受けていた被告A(以下「被告A」という。)が不正の利益を得,株式会社三井企画(同会社破産宣告後の破産財団)に損害を与える目的をもって被告会社に開示し(不正競争防止法2条1項7号),被告会社が不正開示行為が介在していることを知りながら営業秘密の開示を受けてこれを使用した(同項8号)と,主張して,被告らに対し,本件顧客情報を用いた営業活動の差止及び同顧客目録の廃棄を求めるとともに,損害賠償(平成15年7月10日付け訴えの変更申立書が被告両名に対して送達された日の翌日である同月11日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金を含む。)を請求している。
1前提となる事実関係(証拠により認定した事実については,末尾に証拠を掲げた。)
(1)当事者
ア原告は,コンピュータを利用した販売促進に関する情報・資料の収集,企画及びコンサルタント業務,通信販売業務等を主たる目的とする株式会社で,具体的には作務衣及び作務衣に類似する商品並びに作務衣に関連する肌着,バッグ,履き物等の商品(以下,これらをまとめて「作務衣等」という。)の通信販売事業を行っている(甲1,弁論の全趣旨)
イ被告会社は,住宅設備機器のメンテナンス及び施工・販売等を主たる目的とする有限会社である。
ウ被告Aは,平成13年6月21日に東京地方裁判所から破産宣告を受けた株式会社三井企画(以下「三井企画」という。)の代表取締役の職にあったものである。
三井企画は,昭和45年1月に設立されたペン字等の学習器具並びに出版物の製作及び販売等を目的とした株式会社であり,いわゆる「睡眠学習器」の販売やペン字講座の通信教育の開講などを行った後,昭和62年ころから作務衣等の通信販売を開始し,次第にこれに特化した。
しかし,平成9年ころから財務状況,資金繰りが悪化し,破産に至った。
(2)本件顧客情報
本件顧客情報は,三井企画が作務衣等の販売を目的としたダイレクトメール等を送付していた顧客に関するもので,同社において作成,管理,使用されており,被告Aは代表取締役在任中,同情報を知り得る立場にあった(甲6,7,弁論の全趣旨)。
(3)原告の本件顧客情報の取得等
上記(1)のとおり,三井企画は東京地方裁判所に破産を申し立て,平成13年6月21日,破産宣告を受けたものであるが,この破産手続の中で,原告は,平成13年8月31日,三井企画破産管財人Cより,三井企画の有していた売掛金債権,在庫商品及び本件顧客情報を含むデータベース等を815万円で譲り受けた。
そして,原告は,本件顧客情報を用いて作務衣の販売等の営業活動を行っている。
(以上につき,甲4(枝番号は省略。
以下,同様),乙1,弁論の全趣旨)
2争点及び当事者の主張
(1)本件顧客情報は営業秘密といえるか
(原告の主張)
次に述べるとおり,本件顧客情報は,三井企画において営業秘密性が確立され,同情報を独占的に承継した原告のもとにおいても営業秘密性を有するものである。
ア有用性
作務衣販売の顧客層は,その性質上,寺院及び一部の飲食店に勤務する者や陶芸家などその対象が限られている一方で,その多くが熱心な愛好家であり,継続的に作務衣等を購入することが多い(原告のデータでは,購入者の約8割が作務衣等の購入経験者である。)。
この点,本件顧客情報は,三井企画が,昭和62年ころから平成13年までの年月にわたり,多大な費用をかけて定期的に全国紙に作務衣等の販売の広告を掲載し,これに対して資料又は商品の請求など何らかの反応があった者を記録・管理することにより形成されたものであって,作務衣等販売についてその有用性は極めて高い。
作務衣等販売について,このような多数の有効な顧客名簿を作成することは多大な費用がかかり,容易なものではない。
さらに,原告及び三井企画は,作務衣等の通信販売を業とする会社であるが,通信販売事業においては,その販売広告方法としてはダイレクトメールを送付することが一般的であり,費用対効果の点からその他の広告方法は限られている。
そのため,通信販売の広告を行う対象としてどのような顧客を選択するのかという点は,まさに通信販売事業の要であり,特定の商品を嗜好するものとして選別された顧客の住所氏名が記載された名簿は極めて営業上の価値が高いものである。
現に,本件顧客情報に含まれる顧客に対し,継続的に作務衣等を販売することにより原告の経営が成り立っていることからもわかるように,本件顧客情報は,原告が同業他社と競争していく上で多大な財産的価値を有する有用な営業上の情報であることは明らかである。
イ三井企画における本件顧客情報の管理
(ア)本件顧客情報を含む媒体
三井企画では,本件顧客情報は,基本的にはデータベースとしてサーバコンピュータに保管されていた(以下,本件顧客情報をデータとして含むデータベースを「本件データベース」という。)。
本件データベースには,約8万人の顧客につき,顧客ごとに,住所・氏名・性別・生年月日・購入実績・支払実績等の情報が含まれていた。
具体的には,直近1年以内に商品を購入し,かつ累積購入額が10万円以上である顧客群(顧客全体の約25%),直近1年以内に商品を購入しかつ累積購入額が10万円以下である顧客群(同じく約30%),1年以上も商品を購入していないが,累積購入額が10万円以上である顧客群(同じく約20%),1年以上商品を購入しておらず,累積購入額も10万円以下である顧客群(同じく約25%)などと分けられていた。
また,上記のとおり,本件データベースは,昭和62年ころから平成13年に破産するまでの間に,三井企画では,顧客とのやりとりは,いったん紙媒体の書面に記載してから,本件データベースに入力するという手法がとられ,具体的には,1申込書(顧客から三井企画に対するカタログ及び商品請求の申込の内容を記載したもの),2宅配伝票控(三井企画が顧客に対し商品を発送する際の伝票控え)及び3返品交換票(商品を購入した顧客から,返品・交換の申込みがあった際に作成されるもの。
なお,これら1ないし3の書面をあわせて「本件各書面」という。)等が作成された後に,本件データベースに入力がされていた。
このように,三井企画では,本件顧客情報は,本件データベース(磁気媒体)及び本件各書面(紙媒体)として管理されていたものである。
なお,原告が三井企画から本件顧客情報を譲り受けるに際しては,原告は,本件データベースのプログラムがインストールされていたサーバ・コンピュータについても,別途,所有者であったリース会社から購入している(三井企画は,サーバ・コンピュータをリースで使用していた。)。
また,本件各書面は,三井企画破産管財人がすべて廃棄処分している。
(イ)本件各書面等(紙媒体)の管理
三井企画では,本件各書面は,本社ビル6階の,施錠された倉庫兼コンピュータ管理室にファイルして保管されていた。
この倉庫兼コンピュータ管理室の入口の鍵は,社外の者は一切立ち入ることのない同社3階の事務所スペースのうち,9名いた一般の従業員用のスペースとは区切られた取締役専用の部屋の鍵箱の中に保管されていた。
また,三井企画は,本件各書面の保管期間を5年と定め,この保管期間を経過した書面については,当初は,同ビル屋上に設置した焼却炉にて自ら焼却処分していた。
自ら焼却処分しなくなった後にも,文書廃棄の専門業者と機密保持契約を締結し,本件各書面の廃棄を委託していた。
さらに,三井企画では,社内において,本件顧客情報の一部分でも記載されている本件各書面以外の紙媒体のものについても,すべてシュレッダーにかけてから廃棄するよう従業員に指導し,そのとおりに実践されていた。
(ウ)本件データベース(磁気媒体)の管理
三井企画においては,本件データベースは,情報管理を徹底する趣旨で,当初から,インターネット等による外部との接続を一切遮断した特別のサーバ・コンピュータシステムにより作成,保管されていた。
そして,本件データベースを管理するサーバ・コンピュータは,上記本社ビル6階の施錠された倉庫兼コンピュータ管理室の中に設置され,同サーバ・コンピュータには電源用の鍵が付されていた上,同社においては,データの外部への漏えいを防止するため,日々の業務が終了するごとに,コンピュータの各端末のみならず,サーバ・コンピュータ自体の電源を切ることとされていた。
加えて,同社において,本件データベースの管理は,原則としてコンピュータ管理を担当する1名の従業員に限定されており,データベースにアクセスするための暗証番号も設定されていた。
(エ)従業員への指導
上記のように,本件顧客情報は,通信販売事業に用いる顧客情報であることや,作務衣等という特定の商品を嗜好する顧客の情報であることなどから,その有用性は極めて高いものである。
したがって,三井企画でも,就業規則30条(服務心得)で,従業員に対し,会社の業務上の秘密を他に漏らさないことを義務づけ,新入社員の入社時にはその旨強く指導するなど,社内では,本件顧客情報を社外に漏えいしないよう指導していた。
本件顧客情報を含む紙媒体を社外に廃棄する場合には必ずシュレッダーをかけ,廃棄の専門業者に委託していたのも,その一環である。
ウ原告における本件顧客情報の管理
(ア)本件顧客情報を含む媒体
原告においても,本件顧客情報はコンピュータのデータベースとして管理されている。
また,三井企画において作成された紙媒体による情報は三井企画破産管財人がすべて廃棄したため,原告には存在せず,また,原告では,配送伝票控呼び返品交換票を除いては本件顧客情報を含む紙媒体を新たに作成していない。
(イ)データベース(磁気媒体)の管理
原告においては,本件顧客情報を含んだコンピュータのデータベースの管理は,秘密保持契約を締結した上で,ダイレクトメールの発送代行,電話の受発信代行及びデータベース管理を主たる業務とする株式会社ランドスケイプに委託している。
ランドスケイプにおいて,本件顧客情報は,同社の一定の従業員しかアクセスすることができないサーバ・コンピュータに登録され,秘密情報として厳格に管理されている。
具体的には,データベースへのアクセスは,原告代表者から具体的指示があった場合に,一部の管理者しか知らないID及びパスワードを用いてのみ可能であり,さらに,このデータをプリントアウトするのは,原告の代表者から具体的に指示があった場合に限定されている。
(ウ)紙媒体の管理
原告が新たに作成した宅配伝票及び返品交換票は,社外の者が一切立ち入ることがない原告事務所のロッカーの中にファイルして保管されている。
(エ)従業員への指導
原告において,本件顧客情報の管理には最新の注意が払われ,日常の業務において,従業員に対して社外に漏えいすることがないよう指導を行っている。
エ非公知性
本件顧客情報,すなわち,三井企画に対し作務衣等の資料請求をし,あるいは作務衣等の購入実績のある顧客の住所・氏名が,公然と知られていない情報であることは明らかである。
(被告らの主張)
原告の主張は争う。
三井企画及び原告において,本件顧客情報についてそれ相当の管理をしていたことは事実であるが,原告が述べるような厳格な管理がされてたものではなく,原告の主張は大げさである。
(2)本件顧客情報を被告Aが不正の目的をもって開示し,被告会社は不正開示行為が介在したことを知りながら同情報を使用したか
(原告の主張)
ア被告Aは,三井企画の破産申立直前の平成13年5月21日,同社の顧客奪取を企図して,同社においてコンピュータに関する事務を担当していた従業員であったB(以下「B」という。)に対し,同社の他のすべての従業員に目的を秘匿したまま,本件データベースに含まれる情報のうち,別紙顧客情報目録記載の顧客の住所,氏名に関する部分をフロッピーディスクにコピーするよう依頼し,同月28日,上記情報をコピーしたフロッピーディスクを受領し,自宅に持ち帰った。
イ三井企画は,同年6月21日に破産宣告を受けたが,破産管財人に就任したC弁護士は,上記経緯を知り,被告Aに対し,同人が三井企画から持ち出した本件顧客情報は,同社が秘密として管理していたこと,多大な財産的価値を有する営業秘密に該当するものであること等を理由として,本件顧客情報を記録したフロッピーディスクの返還を求めた。
被告Aはこれに応じて破産管財人に対し,持ち出したフロッピーディスクを返還した。
ウしかし,被告Aは,上記フロッピーディスク自体は返還したものの,破産管財人に秘して,同フロッピーディスクに記録されていた本件顧客情報を返還前にさらに別の磁気媒体にコピーしていた。
その後,被告会社は,被告Aによる本件顧客情報の開示が不正なものであることを知りながら,被告Aから本件顧客情報の開示を受けた。
そして,被告会社は,平成14年11月ころから,被告Aと共に,本件顧客情報を用いて別紙顧客目録記載の顧客に対し,原告と同一製品につき原告設定の価格を比較対照価格とする二重価格表示を付すなどした作務衣及び作務衣仕立ての肌着等の販売カタログを送付し,実際に作務衣その他の製品を販売する等の営業活動を行っている。
(被告Aの主張)
ア原告の主張のうち,ア及びイのような事実があったことは事実であるが,本件とは無関係である。ウについては否認する。
イ以下に述べるとおり,被告Aは,三井企画の破産以前に三井企画の資金繰りのために株式会社富士宣(以下「富士宣」という。)に対して本件顧客情報のデータを有償譲渡し,富士宣と被告会社がそのデータを使用して営業活動行っているにすぎない。
(ア)三井企画は,平成13年2月23日ころ,経営難であったことから,代表者であった被告Aにおいて,三井企画の20年来の取引先で,ダイレクトメールの発送業務などを依頼していた富士宣に融資を依頼し,三井企画振出の額面300万円の手形により手形貸付を受けた。
現実の金員交付額は290万円余り,手形の満期は平成13年5月31日であった。
そして,このとき富士宣は,三井企画の資金力に不安を感じていたことから,富士宣の代表者D(以下「D」という。)において,被告Aに対し,何か担保になるものはないかと要求してきたので,被告Aは,三井企画のコンピュータに存在する本件顧客情報のデータの一部を,担保として富士宣に提供することとし,同年4月26日に本件顧客情報のデータを記録したフロッピーディスクを自宅に持ち帰り,別のフロッピーディスクにコピーした上でDに引き渡した。
ただし,データを引き渡したのであるから,引渡しによっていわば確定的に富士宣にその情報が渡ってしまった。
つまりは本件顧客情報の管理支配権限は物権的に富士宣に移転し,担保権実行までの間は,富士宣が自由にそれを利用することができないにすぎないということとなった。
(イ)しかるにその後,同年6月21日に,三井企画は,破産宣告を受けたため,富士宣は,上記の譲り受けたデータを自己の債権の満足を得るため利用することになった。
そして平成14年10月ころ,富士宣は,同じく三井企画及び被告Aに対する債権者であった被告会社と連携して,被告会社が販売の主体となり,富士宣が上記名簿を使用してダイレクトメールを発送する形で,作務衣の販売を行うことになった。
被告Aも,破産免責を受けた後,富士宣及び被告会社から事業に加わってほしい旨依頼され,被告会社の一従業員として業務に当たっているのである。
(被告会社の主張)
原告の主張のうち,被告会社に関する部分は否認する。
ア被告会社は,平成14年10月ころ,富士宣から作務衣販売についての話を持ちかけられた。
それは,被告会社が販売者となり,富士宣が所有する名簿を使用して顧客にダイレクトメールを発送し,作務衣の販売を行うというものであった。
被告会社としては,同名簿なるものは,かねて三井企画から富士宣が譲り受けていたものと聞いていたので,問題ないものとして,その話に加わった。
イなお,被告会社としては,パンフレットの作成等のノウハウはないので,仕事がなくて困っていた被告Aに手伝ってもらっているのである。
(3)原告の損害
(原告の主張)
原告は,被告らの不正競争行為によって以下のとおりの損害を受けた。
なお,以下のア及びイの各損害は選択的に主張するものである。
ア本件顧客情報の使用料相当額
原告は,本件顧客情報を三井企画破産管財人より815万円で独占的に譲り受けた。
仮に,原告が同業を営む第三者に本件顧客情報全体を使用させる場合には,通信販売業においては,顧客情報が極めて重要であることや,一度情報を開示した場合には開示先から顧客情報が流出する可能性が否定できないことなどから,取得代金である815万円を上回る使用料を受取るべきものである。
また,仮に,原告が同業を営む第三者に本件顧客情報の一部を使用させる場合には,同種の顧客情報の価額からすれば,顧客1件当たり100円を上回る使用料を受取るべきものであるところ,被告らが本件顧客情報を使用して作務衣等その他の製品の販売カタログを送付した先は,8万1500件を下ることはない。
したがって,被告らの不正競争行為によって原告が受けた損害は不正競争防止法5条3項3号に基づき,815万円を下らない。
イ被告らの享受した利益相当額
被告らが,不正競争行為によって享受した利益は815万円を下ることはない。
したがって,被告らの不正競争行為によって,原告が受けている損害は不正競争防止法5条2項の規定により,815万円を下らない。
(被告らの主張)
原告の主張は,争う。

第3当裁判所の判断

1争点(1)(本件顧客情報は営業秘密といえるか)について
(1)前記の前提となる事実関係(第2,1)に証拠(甲4ないし7,9,乙1ないし3,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実が認められ,これを左右するに足りる証拠はない。
ア三井企画は,昭和45年1月に設立されたペン字等の学習器具並びに出版物の製作及び販売等を目的とした株式会社であり,いわゆる「睡眠学習器」の販売やペン字講座の通信教育の開講などを行った後,昭和62年ころから作務衣等の通信販売を開始し,次第にこれに特化するようになった。
そして,定期的に全国紙に作務衣等販売の広告を掲載するなどして広告宣伝活動を行っていた。
イ本件顧客情報は,このように三井企画が行った広告,宣伝に対して資料又は商品の請求など何らかの反応があった者を記録,管理することにより,蓄積されたものである。
作務衣の通信販売は,商品の性質上,顧客層が限られているため,本件顧客情報により効率的な営業活動を行うことが可能となるものである。
また,三井企画及び原告においては,本件顧客情報を基本的には本件データベースによって管理し,顧客の購入実績による分類を付して保管していた。
ウ三井企画における本件顧客情報の管理状況は次のとおりであった。
(ア)三井企画では,顧客とのやりとりは,いったん紙媒体の書面に記載してから,本件データベースに入力するという手法がとられ,具体的には,1申込書(顧客から三井企画に対するカタログ及び商品請求の申込の内容を記載したもの),2宅配伝票控(三井企画が顧客に対し商品を発送する際の伝票控え)及び3返品交換票等の本件各書面が作成された後に,本件データベースに入力されていた。
このように,三井企画では,本件顧客情報は,本件データベース(磁気媒体)及び本件各書面(紙媒体)として管理されていた。
(イ)本件各書面は,三井企画本社ビル6階の,施錠された倉庫兼コンピュータ管理室にファイルして保管されていた。
この倉庫兼コンピュータ管理室の入口の鍵は,社外の者は一切立ち入ることのない同社3階の事務所スペースのうち,9名いた一般の従業員用のスペースとは区切られた取締役専用の部屋の鍵箱の中に保管されていた。
また,本件各書面の保管期間は5年と定められ,この保管期間を経過した書面については,当初は,同ビル屋上に設置した焼却炉にて自ら焼却処分していた。
自ら焼却処分しなくなった後にも,文書廃棄の専門業者と機密保持契約を締結し,本件各書面の廃棄を委託していた。
さらに,社内において,本件顧客情報の一部分でも記載されている本件各書面以外の紙媒体のものについても,すべてシュレッダーにかけてから廃棄するよう従業員に指導し,そのとおりに実践されていた。
(ウ)本件データベースは,会社外部と電気通信回線で接続されていないサーバ・コンピュータシステムにより作成,保管され,同システムは,上記本社ビル6階の施錠された倉庫兼コンピュータ管理室の中に設置され,電源用の鍵が付されていた上,日々の業務が終了するごとに,同システムに接続されたコンピュータの各端末の電源のみならず,サーバ・コンピュータ自体の電源を切ることとされていた。
加えて,同社において,本件データベースの管理は,原則としてコンピュータ管理を担当する1名の従業員に限定されており,データベースにアクセスするための暗証番号も設定されていた。
(エ)三井企画では,就業規則30条(服務心得)で,従業員に対し,会社の業務上の秘密を他に漏らさないことを義務づけ,新入社員の入社時にもその旨指導するなどしていた。
エ原告における本件顧客情報の承継と管理
(ア)原告は,平成13年8月31日ころ,三井企画破産管財人から三井企画の有していた売掛金債権,在庫商品と一括での任意売却の形で本件顧客情報を含むデータベース等を815万円で譲り受けた。
三井企画の第1回債権者集会における破産管財人の報告においては,売掛金の財団組入見込額は1413万2766円,在庫商品の財団組入見込額が207万0120円であったが,実際には,いずれの財産についても換価処分は到底困難であり,原告が,本件顧客情報を含むデータベースの価値を評価し,同データベースと一括であれば任意売却に応じるとの意向を示したため,価格折衝を行った上,譲渡契約を締結し,裁判所の許可を得て上記のとおり売却されたものである。
同破産管財人は本件顧客情報を原告のみに譲渡し,他の者には譲渡せず,被告Aが破産宣告直前に本件顧客情報のデータを複写したフロッピーディスクを持ち出したことを知るや,同被告に対して同フロッピーディスクを返還するように求め,同被告から返還を受けた。
また,三井企画において作成された本件各書面は三井企画破産管財人がすべて廃棄した。
原告は,本件顧客情報を譲り受けた後,本件顧客情報をコンピュータのデータベースの形のまま管理し,配送伝票控及び返品交換票を除いては本件顧客情報が記載された紙媒体を作成していない。
(イ)原告は,本件顧客情報を含んだコンピュータのデータベースの管理は,秘密保持契約を締結した上で,株式会社ランドスケイプに委託しているものであるが,データベースへのアクセスは,原告から具体的指示があった場合に,一部の管理者しか知らないID及びパスワードを用いてのみ可能とされている。
さらに,このデータをプリントアウトするのは,原告の代表者から具体的に指示があった場合に限定されている。
(2)以上の事実によれば,本件顧客情報は,経済的に有用なものであり,三井企画及び原告において秘密に管理され,かつ公知のものではないと認められるので,不正競争防止法にいう「営業秘密」に該当するものと認められる。
なお,本件においては,自ら本件顧客情報のデータを蓄積した三井企画ではなく,三井企画の破産管財人から本件顧客情報を譲り受けた原告が請求主体となっているものであるが,上記認定の各事実によれば,原告は,三井企画において営業秘密として管理されていた情報を三井企画の破産管財人から独占的に譲り受けたこと,原告においても,三井企画におけると同様に秘密として管理されていたものと認められ,かかる事情のもとにおいては,原告は,三井企画において営業秘密として管理されていた本件顧客情報を取得して,三井企画と同様に営業秘密として管理していたものであるから,原告は,営業秘密の管理をしているものとして,差止請求及び損害賠償請求をなし得るものと解される。
2争点(2)(本件顧客情報を被告Aが不正の目的をもって開示し,被告会社は不正開示行為が介在したことを知りながら同情報を使用したか)について(1)証拠(甲4ないし6,8,乙1ないし3,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア平成5年12月ころ,三井企画の創業者であるEが代表取締役を退任した後,被告Aの義兄であるF(以下「F」という。)がいったん代表取締役に就任したが,会社の経営における重要事項の判断は被告Aが行うようになり,間もなくFに代わって被告Aが同社の代表取締役に就任した。
イ三井企画は,平成9年ころから財務状況,資金繰りが悪化し,平成13年5月31日に東京地方裁判所に自己破産の申立てを行い,同年6月21日に破産宣告を受け,C弁護士が破産管財人に就任した。
ウ上記破産宣告に先立つ同年5月21日,三井企画のコンピュータに関する事務等担当の従業員であったBに対し,本件データベースに含まれる情報のうち,本件顧客情報に関する部分をフロッピーディスクにコピーするように依頼し,同月28日,上記情報をコピーしたフロッピーディスクをBから受領し,自宅に持ち帰った。
エ上記破産宣告後数日間は,被告Aが破産管財業務の補助を行っていたが,上記ウの被告Aによる顧客情報の持出しに気付いた三井企画の取締役G(後の原告代表者。
以下「G」という。)が,破産管財人に対し,上記の被告Aによる顧客情報持ち出しの事実等を説明した結果,平成13年6月末ころからは,Gが破産管財業務の補助を行うようになった。
オ上記のGからの報告を受けた破産管財人は,被告Aに対し,被告Aが三井企画から持ち出した上記顧客情報のデータが記録されたフロッピーディスクの返還を求め,被告Aはこれに応じて,破産管財人に対し,同フロッピーディスクを返還した。
カ原告は,平成13年9月中旬ころ,破産管財人の承諾を得て,三井企画の事務所から本件顧客情報を含むデータベースが記録されていたサーバ・コンピュータ等を原告の事務所に移転させ,その後,本件顧客情報を利用して作務衣等の販売を行うようになった。
キ被告Aは,平成14年10月ころ被告会社の従業員となったものであるが,被告会社は,同年11月ころから,本件顧客情報に記録されている顧客と同一の顧客に対し,作務衣及び作務衣仕立ての肌着等の販売カタログを送付し,実際に作務衣等の通信販売を行うようになった。
(2)以上認定の事実を総合すると,被告Aが破産宣告直前に三井企画から持ち出した本件顧客情報のデータが記録されたフロッピーディスクから本件顧客情報のデータを別の記録媒体にコピーし,それを作務衣の販売に利用する目的をもって被告会社に持ち込み,被告会社において作務衣の販売を開始した事実を容易に推認することができる。
かかる事実からすれば,被告Aが,本件顧客情報を不正の利益を得,三井企画に損害を与える目的をもって被告会社に開示し,被告会社は不正開示行為が介在したことを知りながら同情報を取得してこれを使用したことが認められる。
(3)この点に関し,被告Aは,本件顧客情報は,三井企画の破産宣告前に富士宣から手形貸付を受けた際の担保として譲渡担保に供したものである旨を主張しており,被告会社は,富士宣から本件顧客情報を取得したものであって,被告Aが三井企画から持ち出した本件顧客情報を使用したものではない旨を主張している。
しかしながら,乙4号証の1,2によれば平成13年2月23日に富士宣に対して三井企画が約束手形を振り出した事実は認められるものの,その担保に本件顧客情報が供された事実は本件全証拠によっても認めることはできない。
むしろ,甲10号証及び弁論の全趣旨によれば,富士宣は,三井企画の破産手続において,上記手形債権の届出をしたにもかかわらず,何らの担保権の主張もしていない。
このため,三井企画の破産管財人も,上記富士宣の届出債権について富士宣を別除権者として取扱わず,本件顧客情報を原告に譲渡した事実が認められる。
被告らの上記主張は,このような破産手続における客観的事実と符合しないものである。
そればかりか,上記1において認定のとおり,本件顧客名簿は三井企画における重要な営業秘密として厳格に管理されていたものであり,被告Aが主張するように,300万円の手形貸付のために,被告Aの専決で譲渡担保に供し得るものとは考えられないことに加え,平成13年2月23日に行われた手形貸付の担保供与が2か月以上も経過した同年4月26日に行われたというのも不自然というほかはなく,被告らの上記主張を採用することは,到底できない。
また,被告会社は,富士宣から,富士宣が所有する本件顧客情報を使用して顧客にダイレクトメールを発送し,被告会社が作務衣等の販売を行うという話をもちかけられたと主張し,これに沿う被告Aの陳述書(乙3)も提出されているが,被告Aの陳述書を裏付ける客観的な証拠は全く提出されていないから,これを直ちに措信することはできない。
(4)以上のとおりであるから,被告Aには,本件顧客情報を不正の利益を得,三井企画に損害を与える目的をもって被告会社に開示した不正競争行為,被告会社には不正開示行為が介在したことを知りながら同情報を取得してこれを使用した不正競争行為があったものと認められる。
上記(1)に認定のとおり,被告会社は,現に本件顧客情報を使用して作務衣販売の営業活動を行い,被告Aはこれに関与しているものであるから,原告の請求のうち,本件顧客情報を使用して,作務衣の売買契約の締結,締結方の勧誘を行う行為の差止めを求める請求及び本件顧客情報を記録した磁気媒体及び紙媒体の廃棄を求める請求は,理由がある。
3争点(3)(原告の損害)について
前記1,(1)において認定のとおり,本件顧客情報は,顧客層が限られる作務衣の販売においては有用性の高いものであり,原告は,三井企画の破産財団のうち本件顧客情報を含むデータベースに価値があるものと考え,およそ換価することが困難であった売掛金債権,在庫商品と一括での任意売却の形で,三井企画破産管財人から同データベースを815万円で譲り受けたものである。
このような事情に照らせば,本件顧客情報は,それを営業秘密として独占して利用するならば,少なくとも原告の購入価格である815万円の価値を有するものと認められるところ,前記2認定説示のとおり被告らは,不正競争行為により本件顧客情報を取得し,利用しているものであり被告らの得た利益は少なくとも815万円を下回ることはない。
したがって,原告の被告らに対して,損害賠償として,815万円及びこれに対する被告らの不正競争行為の後である平成15年7月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める請求も理由がある。
4結論
上記のとおり,原告の被告らに対する請求は,いずれも理由がある。
よって,主文のとおり判決する。

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